―ホテレスジャーナル編集部:シェフ川越氏が、「水が二人で800円は高い」と言われたことに、「いい水だから当たり前。そういう店を知らないのに、(自分の世界観で)文句をいわれても」と発言したことが批判されていますが、ホテルや飲食店に勤務する皆さんは、どのように感じますか?

 

 

I:ぶっちゃけて言うと、あまり川越氏を好きではない業界の方って多いと思います。俺の方がアイツより実力が上だって思っている人たちが結構いる。けれども、今回の彼の発言は、「よく言った」って人の方が多いですね。

 

 

O:「食べログ」がくだらないってのは本当にそうですね。僕がバイトしている店なんて、「量が多い」っていうことで、2点をつけられました。

 

 

―本当ですか?

 

 

Y:それって、よくあることじゃないですか?うちは分煙されていないで、2点。HPにも書いているんですよ。なのに、「言ってみると、席が近くて、隣にいくと、タバコの臭いが気になる」って書かれて、そこから揚げ足のように、ささいなことでサービスや料理への批判が広がっていく。

 

 

―最初に、タバコで悪印象をもたれると、そこから挽回するのは難しいですよね。

 

 

Y:やっぱり、僕らからすれば、タバコに関してはHPにも記載しているから、ご理解頂きたい。たとえば、これが、隣の人たちがやたらにうるさいとかならば、席をどうにかできないか、お客様への配慮を考えます。けれども、隣の人がタバコを吸っているから、それで席を替えるという配慮はね。空いていれば別ですけど、うちの店だと、タバコ吸う人多いから、その度に席を替えることになる。けど、そこまで配慮しないと、食べログに書かれるんですよ。

 

 

I:だから、川越氏の発言に対して、飲食業界からは批判が出ない。「お客様を何だと思っている!」なんて声よりも、「川越、よく言った」と思っている。うちは、都内一等地に店をかまえている。月の家賃は三桁です。そうなると、200円で仕入れたものは、掛けて出さなければ、利益率としてやっていけない。都内一等地にあるホテルレストランが高いのは仕方ない。FLを見てもらえれば、納得しますよ。どこだって、余裕がある訳ではない。給料だって、いらっしゃられているお客様より高い訳ではない。なのに、「高い。ぼったくりだ」みたいな書かれ方をする。まぁ、書くのは顧客の方ではないのですが。でも、価格は、その店の立地や雰囲気を維持するため、設定されていることは言っておきたいです。

 

 

K:うちは皆さんとは違って、逆に安い均一居酒屋です。均一居酒屋が安く出来るのは、人件費をかけず、効率化重視です。タッチパネルを置き、基本的に取り皿の交換はしない。出した料理の皿を、次の料理の時に下げるだけ。グラスは、ドリンクサービスで交換。何卓分も持っていく時は、なにかのついでに後回し。こういったシステムで、お客様に安い価格でお食事を楽しんでもらっているんです。けどね・・・

 

 

―けど?

 

 

K:サービスについて怒られます。取り皿交換がないのは気がきかない。灰皿交換。店員呼びたくても人がいないぞ、と。もちろん、僕らもいいサービスしたいですよ。ホテルのレストランみたいな。けども、人がいない。それは、ドリンクや料理を安くするためなんです。皆さん、ビールをジョッキで、280円で出していますか?

 

 

(一同:首を振る)

 

 

K:ですよね。500円から800円でしょ。しかも、ジョッキじゃなくて、ピルスナーでしたっけ?ビールグラスとかで。うちの一杯より少ない量でしょ。そこはご理解頂きたい。値段によって、できることとできないことがある。逆に、皆さんの店は、ウチより洗練されている訳ですよね。皆さんの雰囲気からもわかります(苦笑)。でもね、それでも、そういったクレームがあると、僕は本社に呼ばれ、皆さんと同じサービスを求められ、結果、朝から晩まで働くしかなく、ブラック企業になるわけです(笑)。

 

 

―確かに、値段に見合ったっていうのは必要ですね。話は違いますけど、私、王将によく行くんです。女子でって引かないで下さい(笑)。けど、床がベタベタしているのに不満はないなー。王将はそういうものだと思ってます。

 

 

O:それ、分かります。僕は浅草のサンバカーニバル行くんですけど、古い店が多いから、トイレは綺麗ではない。けれど、それは仕方ないと思います。だって、あのレトロ感が売りだろうしね。隣のおじさんたちも下品で、不快だったりするけど、それを食べログに、「客層が悪い」「スタッフの配慮が足りない」って書いて、2点とかつけるのはねぇ。面白かったのは、年配の店員ばかりだから、英語しかしゃべれないお客様はお断りってスタンス(笑)。

 

 

I:うちでそんなことしたら、それこそ、食べログに書かれる。

 

 

K:だから、その店に合ったものを求めてほしいですよね。

 

 

―高級店では安さではなく、サービスを求め、均一店などではサービスではなく、値段を求める。王将の成功は、それがエンドユーザーに届いていた証拠かもしれないですね。

 

 

Y:最後に。誤解しないで頂きたいのは、僕らは、「文句を言うな」と言っているわけではないです。実際に、ここ数年、単価5,000円程度で、ホテルの料理や雰囲気の良いサービスをする店が増えていますよね。うちも、それを自負しています。ただし、Iさんの店のようにはいかない。お出迎えからお見送り、お客様に「すいません」と言わせない、Noと言わないサービスとかは。だって、Iさんの店は、15,000円ですから。逆に、Kさんの店のように、2,000円程度まで下げることもできない。それをご理解頂きたいということです。

 

 

I:私どもが、このような話をしたのは、私どもにとって、お客様の声というのは本当に重いんです。ホテルでいうコメントカードをもらって、全体会議で反省し、心からの手紙を書いて、カイゼンし、再度ご来店頂き、満足してもらう。逆に、値段に関するものなら、こちらはどうにもできない。ただ、そうやって一対一で解決してきました。けれども、SNSで悪評が広まると、こちらではどうにもできません。先日、某飲食店が著名人に批判され、大変なことになりましたよね。新たな時代の、新たな問題だと思います。業界全体で考えなければ、いつか、もっと大きな問題になりそうな気がします。

 

 

―確かにそうですね。また、お話を聞かせてください。今回はありがとうございました。

 

 

 

この原稿をアップする前日、川越氏は、

「この度の件で、食べログの在り方や、ネットニュースの在り方に困惑しておりますのも正直なところでございます」

とブログに綴ったが、今回の出席者の方々が言いたかったのも、同様のことかもしれない。